ここでは、多くの受講生より寄せられた発音に関する質問への回答をYumi先生がまとめていますので、発音練習にお役立てください。
フラップT
『フラップT』とは?
『フラップT』はアメリカ英語にのみおこる、Tの特殊な発音です。
フラップ(flap) とは「(~に当たって)パタパタと動く・動かす」「(~を平いしなやかなもので)叩く」という意味なのですが、『フラップT』はまさしく舌先で上あごを「軽くはじく」ことによって出る音です。舌先が上あごをはじく、当たってパタッと動く、つまり「フラップ」するわけですね。
子供のころ機関銃の真似をして舌先を口の中で振動させて遊んだことがあるかもしれません。まさにあの舌の動きを軽く1回のみ行った音が『フラップT』なんです。例えば “water” や “better”、”party” など、ごく身近な単語などにも使われる発音なので耳にしたことも多いかと思います。
通常 [ t ] は「口を軽く閉じた状態で舌先を前歯の裏の歯茎につけ、息を止めた状態から破裂させるように息を出す」音なのですが、『フラップT』になるとそれが [ l ] や [ d ] にごく近いその間をとったような音になります。”water” を「ワーラ―」や「ワーダー」、”better” は「ベラー」や「ベダー」、”party” は「パーリー」などとカタカナで表記されることもあるのはそのためなんですね。
この『フラップT』は同じ条件で [ d ] にも起こることがあります。例えば “ladder” や ”middle” などですね。すでに [ d ] の音ではありますが、『フラップT』になることで、破裂音の [ d ] より柔らかい音でフラップします。
『フラップT』が起こる条件 その1
- [ t ] や [ d ] の音が「母音と母音」「Rと母音」「母音とL」または「RとL」に挟まれていて、かつ
- [ t ] や [ d ] の音の前にアクセントがある
この2つの条件がそろって初めて『フラップT』の音になります。ここで注意すべきは、「母音と母音」というのは「つづり」ではなく「音」であるということです。
例えば “daughter”。
つづり上、Tを挟んでいるのは H と E ですが、この単語にも『フラップT』は起こるんです。発音記号を見てみると [/dˈɔːṭɚ/] となっていて、”-gh-“ の部分がサイレントであることがわかります。つまり [ t ] が /ɔː/ と /ɚ/ という母音の発音に挟まれているわけですね。そのため『フラップT』が起こります。
一方で “written”。
つづり上、Tを挟んでいるのはIとEがですが、この単語には『フラップT』は起こりません。発音記号を見てみると [/rítn/] となっていて、[ t ] の直後に [ n ] があることがわかります。つまり、[ t ] が /í/ と /n/ に挟まれていて、上の条件を満たしていないわけですね。そのため『フラップT』が起こらないわけです。
また、[ t ] や [ d ] の後ろにアクセントがある場合には、『フラップT』は起こりません。
例えば “hotel”。
発音記号を見てみると [/hòʊtél/] となっていて、[ t ] の音が「母音と母音」で挟まれているにも関わらず、第一アクセントが後ろの /é/ の音にあることがわかります。そのため『フラップT』が起こりません。
*条件の②を「[ t ] や [ d ] を含む音節の直前にアクセントがある」「[ t ] や [ d ] の後ろの母音にアクセントがない」とする見解もあります。
『フラップT』を含む単語
- 「母音と母音」に挟まれた [ t ] のある単語
water better letter computer heater lighter gotta motor pretty university city pity debating tutor - 「Rと母音」に挟まれた [ t ] のある単語
dirty thirty forty party artificial comforting - 「母音とL」に挟まれた [ t ] のある単語
bottle title little hospital rattle subtle fatal - 「RとL」に挟まれた [ t ] のある単語
startle turtle myrtle
『フラップT』を含む単語の並び
『フラップT』は1つの単語内のみでなく、2つの単語がリンキングされるときにも起こります。
例えば “get up”。
発音記号を見てみると [/gét/] [/ˈʌp/] と、[ t ] の音が「母音と母音」で挟まれていますし、[ t ] の直前の /é/ の音にアクセントがあることがわかります。そのため『フラップT』が起こります。
get a ~ got a ~ get up shut up let it go let it be check it out sort it out eat it all a lot of ~ about it what are you doing? What is ~? What if ~ Not at all Good evening
『フラップT』を含む早口言葉もあるんですよ。
Betty Botter bought a bit of butter.
“But,” she said, “this butter’s bitter!
If I put it in my batter.
It will make my batter bitter.
But a bit o’ better butter.
Will make my batter better.”
Then she bought a bit o’ butter.
Better than the bitter butter,
Made her bitter batter better.
So it was better Betty Botter.
Bought a bit o’ better butter.
『フラップT』が起こる条件 その2
単語の中に -nt- が含まれている場合、『フラップT』が起こる場合もあります。
上でご紹介した『フラップT』と比べると [ t ] の音が [ n ] の音に吸収されたような、[ n ] の音が強調されて [ nn ] になったような音になります。『ntの同化』『Tの吸収』や『鼻音化フラップT』と呼ばれることもあります。
- つづり上NとTが並んでいて、
- 直後に母音があり、かつ
- 直前の母音にアクセントがある
の3つの条件がそろっている必要があるのですが、例外も多く、「Tの脱落」としてリダクションの一種とする見解や、[ t ] の音が [ n ] の音に吸収され消えた「サイレントT」とする見解もあるようです。
“intake” や “untrue” など、この条件に当てはまるにも関わらず [ t ] がはっきり発音されることから、接頭語の一部に -nt- が含まれる場合には [ t ] の音が脱落しないであろうことが推測されます。
『鼻音化フラップT』を含む単語
inter internet center twenty seventy county painter winter incidental Santa enter fantasy plenty representative wanted gentlequantity accountable
『鼻音化フラップT』を含む単語の並び
went off went up isn’t it? want it want a ~
ストップT
『ストップT』とは?
『ストップT』はTの音をストップ(stop) することによっておこる発音です。
通常 [ t ] は「口を軽く閉じた状態で舌先を前歯の裏の歯茎につけ、息を止めた状態から破裂させるように息をトゥッと出す」音ですが、『ストップT』は「破裂させるように息を出す」という後半部分が省略され、ただ「舌先を前歯の裏の歯茎につけ、息を止める」だけになります。そのため、[ t ] が聞こえるべき箇所から音が消えたように、音が止まったように聞こえるわけですね。『寸止めのT』と呼ばれることもあります。同じ条件で [ d ] にも『ストップT』が起こることがあります。
『ストップT』が起こる条件
- 単語の最後が -t や -d で終わる、または
- [ t ] や [ d ] の直後に子音がくる
このどれか1つが当てはまる場合に『ストップT』が起こるようです。ですが、その単語を強調して発音する場合には『ストップT』は起こりません。
『ストップT』を含む単語や単語の並び
- 単語の最後が -t や -d で終わる
cat can’t bat boat front coat but paint sweet won’t might had bad red cord glad hold afraid board attend arcade - [ t ] や [ d ] の直後に子音がくる
football sitcom outside atlas butler lately atmosphere nightmare exactly grandma grandpa food court grand piano
『グロッタルストップT』
Tの音をストップするにも、ただ「息を止める」他に「飲み込む」発音もあるんです。
『ストップT』が前歯の裏の歯茎に舌をつけ「息を止める」のに対し、『グロッタルストップT』は声門をギュッと閉じ喉元で息を止めるため、音を飲み込んだように聞こえます。そのため『飲み込みのT』や『正門閉鎖音』と呼ばれることもあります。グロッタル(glottal) とは「声門の」という意味なのですが、そこでストップする、ということですね。[ t ] の後ろに [ n ] の音が来る場合に起こりますが、同じ条件で [ d ] に起こることもあります。
button mountain fountain curtain certain cotton student important written lighten forgotten eaten Britain couldn’t burden
強形・弱形
『強形』『弱形』とは?
日本語と英語の発音の大きな違いの1つは、英語には音の強弱があることです。聞き取りや、より伝わりやすい話し方をする上で押さえておくべき大切なポイントだと思います。
この強弱は『強形』の発音と『弱形』の発音と呼ばれるのですが、単語の並びによってこの強形と弱形の組み合わせが変わり流れができるわけです。例えばスキップや音楽のシンコペーションのような感じです。この強弱があることで英語のリズムやイントネーションが生まれるわけですね。
まず『強形』ですが、実はこれは通常の発音で、特に強く発音されるわけではありません。『弱形』に比べると長く強く発音されているように聞こえるというものです。『弱形』と対比するため、敢えて「強」という言葉が使われているだけなんです。
『弱形』というのは、全体的に弱く語尾が短く発音される単語の発音方法です。文法上必要でも文意においてさほど重要ではない、冠詞やbe動詞、接続詞、前置詞、人称代名詞などの機能後が弱形の発音になる代表です。「単語の間のつなぎ」や「息継ぎ」、「山の間の谷」、強形の単語が後ろにある場合には「後ろから食らいつかれている」「強形の単語に吸収されている」などと表現する人もいます。辞書にも (強形) や (弱形)、(強)(弱) といった表記がされていることもあるので、参考にしてみてください。
文中での『強形』と『弱形』
例えば “a lot of”。
冠詞 “a” と前置詞 “of” は『弱形』、”lot” は『強形』なので、“a LOT of” という発音になるわけです。
他に例えば “and you are always like that”。
接続詞 “and” と 人称代名詞 “you”、be動詞 “are”、前置詞 “like” は『弱形』、それ以外は『強形』です。“and you are ALWAYS like THAT” という発音になるわけですね。
もちろん、伝えたい内容によってはこの『強形』『弱形』に関わらず、単語を強調して発音することもあります。例えば上記の文で「あなた」であることを強調するため『弱形』の発音である ”you” を強めに発音したり、「いつも」であることを強調するため、すでに『強形』である ”always” を敢えて強めに発音したりすることもあるわけですね。
『第一アクセント』と『第二アクセント』
発音記号を見てみると、アクセントのマークが右上がり「’」のときもあれば、左上がり「`」のときもありますよね。実はこれは『第一アクセント』『第二アクセント』と呼ばれるもので、強弱に少しばかり差があるんです。
右上がり「’」は第一アクセント、左上がりの「`」は第二アクセントと呼ばれるものです。第一アクセントの方がより強くはっきりとアクセントを置いて発音します。第二アクセントにもアクセントはあるのですが、気持ち強めに読む態度です。(*一つの単語内に第一アクセントと第二アクセントの両方が存在することもあるんですよ!)
例えば “get” と “getting”。
同じ単語の原形と進行形ですが、実はこの2つ、強弱に差があるんです。“get” は [/gét/]、”getting” は [/ˈɡɛtɪŋ/] と発音記号で表記します。つまり “get” の方が明らかに強く母音が発音され、”getting” はそうでもないということですね。